サイババの御言葉

日付:1963年8月12日・場所:ブリンダーヴァン
クリシュナ神降誕祭のババの御講話Aより

竹の東屋


クリシュナが横笛を脇に置き、私はもう二度と笛を吹くことはないと宣言した、という出来事がありました。これは長い話で、本には載っていません。その話をすることができるのは私だけです。というのは、その話を語ることができるのは、それを体験した本人だけだからです。

ニーラジャーという花嫁が、男の牛飼い(ゴーパ)の家の嫁として、ゴークラ村〔クリシュナが住んでいた村〕に嫁いできました。花婿と義理の両親は、クリシュナとクリシュナの悪戯に対抗するようにと嫁に戒め、さらには、クリシュナには近づかず、あらゆる手段を講じてクリシュナを避けること、さもなければ酷い罰を与えると、嫁を脅しました。

それはゴーヴァルダナ・プージャーの日で、男の牛飼い(ゴーパ)と女の牛飼い(ゴーピカー)たちは皆、村境を越えてゴーヴァルダナ山への巡行と礼拝に行かなければなりませんでした。それは毎年祝っているお祭りでした。最も厳しい戒めを受けていたにもかかわらず、ニーラジャーもいっしょに行きました。ニーラジャーは、ラーダーとクリシュナがいっしょに踊っていて、それを熱心な牧女(ゴーピー)たちの一群が見入っている様子を、山の近くにあった花で覆われた東屋(あずまや)からこっそりと覗き見しました。ニーラジャーは目の前の神にすっかり心を奪われて、もはや以前のニーラジャーではなくなっていました。

別の日、ニーラジャーは、ヤムナー川の岸辺でクリシュナが竹の東屋(ヴァムシー・クンジ)の屋根から一節の竹を外して横笛を作っているところを見、さらにはクリシュナがそれを奏でた音さえも聞いたのでした! ああ、それは圧倒的な法悦でした! それは、この世でのという束縛から自らを自由するために物質的なしがらみを越えるようにと求める呼び笛でした。ニーラジャーは、もはや誰のことも気にしませんでした。ニーラジャーは神に狂った人となりました。実際、アクルーラ〔カムサ王の家臣〕がクリシュナをゴークラ村からマトゥラーの都へと連れて行こうとしたときに、一番最初に馬車の手綱をつかんで、馬車を後ろに引き戻そうとしたのは、ニーラジャーでした!

クリシュナは切望の叫びに応える

それから、ニーラジャーはそのせいで姑(しゅうとめ)に家から追い出され、カーストから外されました。村中がニーラジャーに後ろ指をさしました。ニーラジャーは日々を竹の東屋(ヴァムシー・クンジ)で過ごし、その心のすべては、自らの心の中に鎮座するクリシュナ神に定まっていました。

月日は流れ、ナンダも、ヤショーダーも、ラーダーも、この世を去りました。ニーラジャーは52歳になっていました。ある日、ニーラジャーは絶望的になって、クリシュナに祈りました。

「私はもう、この見放された人生に耐えられません。私の目は乾ききってしまいました。私の愛を青々と保つための涙は、もう一滴も残っていません。私のハートも急速に荒地へと変わりつつあります。来てください、ああ、神よ、来て、私を救ってください。私をあなたのもとに連れて行ってください」

クリシュナはその祈りを聞き入れました。

クリシュナはその切望に応えて、ニーラジャーの名を呼びました。その声はあまりにも甘く、ニーラジャーを新しい生命力で満たすほどでした。竹の東屋(ヴァムシー・クンジ)は神の栄光で芳しく香りました。クリシュナはニーラジャーのそばに来て、ニーラジャーの手のひらを自分の手の上に乗せました。

「何が望みですか?」とクリシュナは尋ねました。

「人生の目的は何ですか?」とニーラジャーは尋ねました。

「神に融合することです」

「では、私をあなたに融合させてください。でも、その前に、私の愛(プレーマ)があなたの愛に融合する前に、あなたが奏でる笛の音を少しだけ聞かせてください」

クリシュナは微笑むと、笛は持ってきていないからと、言い訳をしました。しかし、ニーラジャーの切望を見てとると、クリシュナは竹の東屋(ヴァムシー・クンジ)から一節の竹を引き抜いて適当な長さに折り、あっという間にそれを横笛へと変えてしまいました。クリシュナはニーラジャーを膝(ひざ)に乗せ、それはそれは美しく笛を奏でました。ゴークラ中が、いや、それどころか、世界中が、法悦の歓喜に浸りました。クリシュナが笛を吹くのをやめたとき、ニーラジャーは究極の至福へと到達し、もはやクリシュナと分離した限りある一人の牧女(ゴーピー)ではなくなりました。クリシュナは笛を脇に置き、私はもう二度と笛は吹かないと言いました。

以上が、一人の牧女(ゴーピー)の物語です。どの牧女(ゴーピー)の物語も皆、それ相当に興味をそそられる話です。というのは、どの牧女(ゴーピー)も皆、自らが抱いていた神への信愛(バクティ)によって、たいそう変えられたからです。牧女(ゴーピー)たちは、『バクティ・スートラ』【信愛の箴言(しんげん)】において、ナーラダをして「バクタの中で最も偉大なバクタである」と言わしめました。

翻訳:サティヤ・サイ出版協会
出典:Sathya Sai Speaks Vol.3 C19

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