サイババの御言葉:全託の原理

日付:1979年・場所:夏期講習
第7回夏期講習における御講話より

全託の原理


すべてのヴェーダと聖典の教えの真髄は、
万物に内在する一なるアートマと自分は同一であると感じるべし
ということである


「アルジュナよ! 一切の中に私を見て、私の中に一切を見る者は、私にとって愛おしい。たとえどんな生き方をしていようとも」

と、クリシュナは述べました。

「すべての生き物を通して私を礼拝する者は、私に融合する!」

と、ギーターチャールヤ〔ギーターの師、クリシュナ神〕は続け、さらに言いました。

「瞑想(ディヤーナ)には制限があるが、それは瞑想によってもたらされる利益のことではなく、スィッディ〔力、成就〕のことである。瞑想は人に至高の智慧、グニャーナを授ける」

グニャーナは単なる頭の体操ではありません。グニャーナは想像をたくましくすることでもありません。心の作り事でもありません。グニャーナはアートマ〔真我〕の実体の絶えざる体験です。

「百万人に1人だけがアートマを悟ろうと努力する。そのうちの千人に1人だけがアートマを悟る過程を理解する。それを理解した数千人のうちの1人だけが私に到達する。真我顕現を成し遂げて私に融合した者は、実に少ない」

と、クリシュナはアルジュナに言いました。

グニャーナ ヨーガの成功は、各人がそれを得るに値するかどうかによります。走る競技で一番になるのは1人だけです。同様に、1本の木には何千という花が咲いているかもしれませんが、結実する花は極わずかです。人にはさまざまな種類がいます。有神論者、無神論者、不可知論者、怠け者、ヨーギ、快楽主義者、禁欲的な人、皮肉屋、聖者、罪人といった人々がいます。どの人も自分のサムスカーラ(過去生で得た肉体的、精神的特徴)に応じて、世の中での特定の地位に就いています。

プラクリティ〔自然界〕は、地、水、火、風、空、心、理智、エゴ〔アハンカーラ、自我意識〕で成っています。プラクリティを越えたところに、パラプラクリティ〔高次のプラクリティ〕と呼ばれるより高い領域があります。

どの人も、プラクリティとパラプラクリティの意味を把握しなければいけません。人はパラプラクリティを通じて神になります。プラクリティは人を世界と結びつけます。パラプラクリティは人を神にします。プラクリティは、具体的で、形があり、触ることができます。パラプラクリティは、抽象的で、形がなく、触ることができません。内在するアートマも、形がなく、触ることができません。アートマは、心と空間と時間を超越した存在です。しかし、ヨーガ〔神との合一〕の道に従うことによって、あなたは直感的、神秘的にアートマを体験することができます。

器の中に牛乳が入っています。あなたは牛乳の中からバターを見分けることができません。それは牛乳の中にバターが含まれていないということですか? 牛乳を沸かし、それから凝乳にしなさい。凝乳を攪拌すれば、中に含まれているバターが表面に浮いてきます。このように、牛乳にはバターが含まれていますが、バターは牛乳を沸かし、発酵させ、かき混ぜるという過程を経させなければ、得ることはできません。同様に、サトウキビには砂糖が含まれています。しかし、汁を絞るにはサトウキビをねじ曲げて圧搾しなければなりません。また、深い地層には水があり、マスタードシードには油が含まれています。水を得るには井戸を掘らなければなりませんし、油を得るにはマスタードシードをつぶして圧搾しなければなりません。

プラクリティは器です。霊性修行は攪拌棒で、グニャーナは霊性修行という攪拌棒をグルグルと巻く縄です。グニャーナの縄を引いて、霊性修行という攪拌棒でプラクリティを攪拌すると、プラクリティの中に隠れていた神性が現れてきます。人々のなかには、怠け者で努力をするのが嫌なために、神は存在しないと主張し続ける人もいます。どの人のハートにも神性の願望成就の木(カルパタル)があります。ハートには願望成就の雌牛(カーマデーヌ)もいます。

人に生じるあらゆる悪、人が得るあらゆる功徳の原因は、自分の行為(カルマ)のみです。罪深い行為は、有徳の行為によって破壊することができます。罪は負であり、功徳は正です。負の整数、たとえば「-5」は、「5」を足すか、あるいはもっと大きな数を足すことによって、0にすることができます。罪深い行いの負の影響は、有徳の行いの正の影響力によって無効にすることができます。

霊性の進歩には2つの方法があります。すなわち、破壊的な道、ヴィッドワムサカ マールガと、建設的な道、ヴィッダーヤカ マールガです。土地を耕したければ、まず雑草を全部抜いて土を平らにします。それから、水を引き、すきで耕し、肥料を施します。この種の仕事は破壊的なことです。種蒔きは建設的なことであり、次に創造的なことがきます。同様に、まずハートから悪い思考を全部引き抜いて、それからハートを愛で満たしたときに、初めて人のハートは神の至福、アーナンダを産出することができます。憎悪、否定的な批判、他人を責める癖、他人の欠点を見つける癖といった望ましくない性質は、捨てなければいけません。皮肉屋は善良さや気高さを正しく評価することができません。それはその人の不運です。ハートから一切の悪が取り除かれて、初めてハートから愛があふれ出ることができます。プレーマ〔神聖な愛〕の木は、純粋で穢れなきハートという土壌でのみ育てることができます。こうした破壊の作業は霊性の進歩にとって不可欠なことです。愛と慈悲がいっぱいに詰まったハートを持つ、浄化された霊性修行者は、一元化をもたらす至高神の知識を手に入れるための瞑想の道を、容易に手際よく渡ることができます。

智慧は、人生と人生の問題に対する理論的な知識を実際に役立たせることにあります。あなた方は、『バガヴァッドギーター』の700の詩節を全部暗記したり、ヴェーダを唱えたり、プラーナ〔神話〕を読んだりすることができるかもしれませんが、それらに含まれている神聖な教えを実行しないなら、その一切は何の役にも立ちません。まじめに聖典を学んでも、聖典が提示している真理を行動に移さなければ、学びは無駄になります。

人々は『バガヴァッドギーター』の本に敬意を表し、うやうやしく尊敬を込めたまなざしで見つめ、礼拝し、両手に抱えて熱心な伝道者のように情熱的に語ります! 人々が崇めているのは物にすぎない本とその頁であり、内容ではありません。本は崇拝されますが、内容は無視されています。同じように、理論的な学習は強調されていますが、それを実際に役立たせることは無視されています。これは許されない悪です。

神性はすべての生き物となって顕現しています。人はこの根本的な真理を実践の中で例証すべきです。人は自分の愛の領域を、全宇宙を包み込むまでに拡大しなければいけません。そうして初めて、神の愛を受けるに値する者となるのです。

クリシュナとアルジュナは、47年間、遊び仲間であり友人でした。2人は子供のころから共に暮らし、遊び、歌っていました。クリシュナは、クルクシェートラの戦いの時まで、バクティ ヨーガも、カルマ ヨーガも、グニャーナ ヨーガも、一度もアルジュナに説いたことはありませんでした。『バガヴァッドギーター』の真髄は、戦場で戦士たちの武器が激しくぶつかり合う音が響く中、クリシュナによってアルジュナに説かれました。クリシュナが『バガヴァッドギーター』という壮大な霊的告知を行う場所として戦場を選んだ内的意味は何でしょうか? クルクシェートラの戦いが始まるまで、アルジュナは世俗の喜びを追い求めることにすっかり夢中になっていて、俗な物事に心を奪われていました。アルジュナはそれまでの生涯を力と金銭と名声を求めることに使っていました。しかし、戦いの前夜、アルジュナは当惑し、自分が失意に沈んでいることに気づきました。世界が美しくも虚しいものに見えました。アルジュナはすべてのものに関心を失い、深い虚無感と無益さと絶望感を味わいました。アルジュナは、自分の親族、友、先輩、師と戦うことは罪であると感じました。戦場から逃げ出してこの場から去りたいような気持ちでした。アルジュナは、激しい苦痛と悲しみ、疑念と絶望にさいなまれました。自分の従兄弟たちと対戦することは最も致命的な罪のように思われました。兄弟殺しの戦争での殺人者の栄光など欲しくありませんでした。「戦うべきか、戦わざるべきか」――それが問題でした。アルジュナは大きなジレンマに陥り、クリシュナに言いました。

「私は識別力を失ってしまいました。正邪を見分けることができません。知性を奪われ、どうしていいかわかりません。深刻な道徳的、霊的危機に直面しています。私はあなたにすべてを託します。この苦境から私を救ってください」

かくして、アルジュナは全託した者、シャラナーガタとなり、クリシュナの前に平伏しました。完全に自己を全託した状況において、アルジュナは一意専心に達し、人生についてのクリシュナの福音を受ける資格を得ました。クリシュナは明らかに、大いなる天の詩歌を説くのにふさわしい時を待っていたのでした。

『バガヴァッドギーター』の説を聴くには3つの資格が不可欠です。それは、全託(シャラナーガティ)、一意専心(エーカーグラタ)、世俗の欲を犠牲とすること(ヴァーラーギャ、無執着)です。全託(シャラナーガティ)とは、完全に自己を明け渡すことであり、帰依者は自分の体、心、ハート、そして、魂〔アートマ〕を、主なる神の蓮華の御足のもとに置きます。一意専心(エーカーグラタ)は、帰依者が主の告知に一心不乱の注意を傾けるときの、心の一点集中です。『バガヴァッドギーター』の深遠な精神を伝授されるには、全託者(シャラナーガタ)に無私無欲の愛と犠牲という性質がなければなりません。

瞑想の重要性も認識すべきです。瞑想は霊的進歩にとって絶対の助けとなるものです。行為の結果からの解放は、瞑想を通して到達することができます。その解放は、霊性修行者が内なる平安(シャーンティ)を得ることを可能にさせます。内なる平安の体験の甘美さは、瞑想の果報から引き出されます。現代人は、平安を求めていながら、暴力と慢心の危険な道を歩いています。心は安らかでなく、ハートはひどく乱れています。その理由は、「過去生で積み上げてきた行い」、プラーラブダ カルマまでさかのぼってたどることができます。プラーラブダ カルマは、地獄の猟犬のように、どこまでも人を追いかけてきます。蓄積したプラーラブダ カルマのずっしりとした重荷は、今生での善行(サットカルマ)によってのみ滅することができます。不快な臭いを消すには香水を使います。しかし、嫌な臭いは本当になくなったわけではありません。香水の香りによって和らげられただけです。それと同じ方法で、過去のカルマ(行い)の有毒な力は、現在の善行の健全な力によって鎮圧し、相殺することができます。

カルマはカルマによってのみ、ぬぐい取ることができます。ダイヤモンドは別のダイヤモンドによってのみカットすることができます。刺は別の刺によってのみ抜くことができます。ダーラナの力(集中力と決断力)は、霊性修行者がハートからあらゆる悪を追い払って徳に座を明け渡すことを可能にさせます。ダーラナは瞑想へとつながります。言い換えるなら、集中は黙想と同化へとつながり、それらは順に、瞑想へとつながります。

翻訳:サティヤ・サイ出版協会
出典:Summer Showers in Brindavan 1979 C19

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